2012年05月07日

GR026 スロースロップの秘密



空に現れる不可視・不可聴のロケット、だがそれにスロースロップは特異な反応をするのだ。空から現れるものに対して謎の反応を示してしまう。だからロンドンのロケットの落下地図と、彼の性愛地図とは一致するんです。その謎を〈彼ら〉は調査しているわけです。これ、まるでアングラコミックのノリですよね。一九七三年、若手で一番の力量を持った作家が、アングラのノリで書いた文章を、『メイスン&ディクソン』のちょっと前の時代の思考に接続しました。雲から現れたピューリタンの神の手。その神さまと帝国主義の最終戦争における復讐兵器との関係を、読者は考えるよう仕向けられます。

 古いタイポグラフィーの効果を狙ったりしているあたり『M&D』の先取りにも見え興味深いので、テクストページの一部をPDFにして貼っておきます。


 

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英国ダブル・サマータイムで六時四三分一六秒、死のドラムのように打たれた空からは、まだ残響の呻りが聞こえる。と、スロースロップの──え、なんだ? そうだよ、GI配給のパンツの中を覗いてみろよ、もそもそ起き上がって、飛びだそうとしているの、なんだなんだ、この勃起、ヘイ、神様、なんのせいだい?

 彼の経歴に、そして、お助けあれ、彼の調査書類[ドーシェイ]にも書かれている。この男、空に顕現するものに、きわめて特異な感受性をもって反応する(しかし、勃起とは)

 故郷マサチューセッツ州ミンジバラの会衆派教会墓地にある、一つの片岩の墓石。そこに彫られた雲から出づる神の手の、その指先は二〇〇年の歳月の火と氷の鑿に削られている。墓碑に彫られた言葉はこうだ──



  一七六六年三月四日 享年二拾九

     ニテ永眠セシ

コンスタント・スロースロップ

     を偲びて


死は自然への負債なり

我は返せり、いつしか君も

 

 コンスタントは見た。それも単に心で見たのではない。俗世の雲間から、目もくらむような光に縁取られた石の手が、彼をまっすぐに指さすのを見たのだ。(……)





ここで「会衆派教会」とはピューリタンのうち、よりピュアなセクトで、新天地を求めて、ニューイングランドに渡った17世紀の移民の多くを占めていました。スロースロップから10代ほど溯った先祖のウィリアムは、後に明記されますが、ジョン・ウィンスロップ総督と一緒にアメリカに渡ってきてアメリカで最初の発禁書を書いている(それ故にイギリスに戻されこの地に眠っていない)という点で、ピンチョンの祖先、ウィリアム・ピンチョン(1590-1662)に関する史実と重なります。子孫のコンスタントも、異端の考えの持ち主だったようで、死を「神」ではなく、「自然」への負債であると言っています。


  なお、緑なすバークシャーの大地とは、『スロー・ラーナー』所収の「秘密のインテグレーション」(一九六四)の舞台でもありました。この短篇は戦争末期から数えて約二〇年後が舞台。元アル中の小学生ホーガン・スロースロップは、タイロンの甥のようです。


 ニューイングランドの墓石の描写がこのあとに続きますが、画像検索してみました。ざっとこんな感じでしょう。このスタイルで、雲の中から神の手が出ているのか。この図像が、ロケット落下とが、どのように繋がるのか。それもこの小説の数多い謎の一つとして継続していきます。続きも訳しておきます。



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その河のせせらぎと丘のスロープの上空にそれを見たのは、息子のヴァリアブル・スロースロップも同じだった。実は家系図の根っこの方へ、九世代・十世代とさかのぼっていくと、みんな等しくそれを見ている。始祖ウィリアムを除いた一家はみな、沼地に接する長い斜面、楡や柳の冷たい影が覆い、ミントやミソハギの落葉の降り積もった豊かな腐土のなかに溶け込み、土と一体化した(密度の濃い文章がまだまだ続きます)


posted by GR at 20:49| テクスト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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